推敲をする


 最後まで書けましたか? 気にいらないところがあっても書けたら一晩寝かせましょう。カレーと同じで一晩寝かすとうまくなる……。もとい、一晩おくと頭が冷静になります。文章を作るときには主観で書いてきましたが、ここからは客観的な目が必要です。慣れるまでは一晩置くようにしましょう。

 くどい文章を徹底的に排除します。

 背の高い男が男の財布から千円札を取り出した。

男が二つ並んでいます。この一文だけを取り出せばそれほどおかしくないかもしれませんが、こんな文章がだらだらと並んでいたら、読んでいる人は投げ出したくなるでしょう。同じ言葉の繰り返しはなるべく避けます。上の例なら二回目の『男の』を『彼の』または『自分の』に変える。もっと言ってしまえば、男が千円札を取り出すのは自分の財布からに決まっています。省いた方がすっきりするでしょう。

また、全体をザーッと眺めてみて、私、彼、彼女、なんていう言葉が多くないですか? こういう文章は英訳のときによく出てくる文章に似ています。日本語を書いているのですから、最低限必要なところ意外は主語を省きます。複文、も英訳でよく出てきますね。

私が見ていた男が立ち去った。

こういう文は二つに分けます。

私は男を見ていた。すると男は立ち去った。

こうすることで、文章のテンポもよくなります。演出上あえてやる場合は別として、あまり長い文章は好ましくありません。分けられる文章は二つに分けます。

一度、自分の書いたものを音読してみましょう。つっかかるところがあれば、直します。上に述べた、くどさ、主語、複文、他にてにをはの使い方、点の打ち方を直すだけで大分読みやすくなるはずです。

文章を書くでも述べましたが、設定をだらだら書いている部分も要注意です。削れる限り削るか小出しにするかしましょう。

次に今度は情景を思い浮かべながら読んでいきましょう。もう一度主観に戻ります。思い浮かばない部分があれば、そこは描写、説明が不足しています。主人公になりきれますか? 風景は見えますか? 登場人物たちは平面になっていませんか? 特に読み手は主人公に感情移入して読むわけですから、主人公の姿が見えなければそれができません。

ただし、注意が必要です。

私は顔が赤くなった。

と書いてはいけません。鏡を見ている場合は別ですが。主人公自身に自分の顔色が見えるわけがないのですから。

私は顔がほてるのを感じた。

が正解です。他にもいろいろな表現の方法がありますから、自分なりにピンとくるものを探しましょう。

同様に主人公以外の人物の心情( )も書いてはいけません。主人公から分からないものは書かない、が鉄則です。代わりに、心情を表すような体の動きに書き直しましょう。もちろん、こちらでは

彼は顔が赤くなった。

と書いてもいいんですよ。これではありきたりですけどね。全体が思い浮かぶまで、書き直しましょう。

それから、時間が混乱している場面はないでしょうか。冒頭で、『今』と出てきたのに、ラストシーンでも『今』が出てくる。これは問題です。『今』がいつなのか、統一する必要があります。ラストシーンを『今』と置くのが一番やりやすいと思いますが、そこは好き好きですね。すると、『今』以外のシーンにおいて、

今日→その日 今→そのとき 今まで→それまで この→その

といった置き換えが必要になります。セリフの中でなら『今』を使っていいんですよ。地の文では注意をしましょう。

以上を納得がいくまで繰り返します。ポイントは

l         客観的に見てくどさを徹底的に排除する

l         主観的に見て描写の足りない部分を補う

l         主人公の視点に立って、主人公から見えないことは書かない

l         『今』を明らかにする

うん、これでよし。そうなったらとうとうあなたの生み出した作品の完成です。おめでとうございます。