文章を作る


さあ、いよいよ小説を作っていきますよ。何から始めましょう? いざとなるとパタッと手が止まってしまいます。目をつぶってみましょう。あなたは主人公です。

一人称小説と三人称小説がありますが、違いはそれほど気にしなくて結構です。主人公を私と呼ぶか、彼、彼女、あるいは名前で呼ぶか、という違いはありますが、基本的に主人公の視点から書くのが書きやすいと思います。神様視点、という言葉を聞いたことがあるかもしれません。第三者の視点から書くことです。しかし、この方法をとると、視点のブレが生じる恐れがあるので、やめておくほうが無難です。ただし、演出上、どうしてもそれをやりたいという方はやってもかまいません。

さあ、あなたは主人公です。主観をバリバリ前面に出してかまいませんよ。何が見えますか? 音は聞こえますか? 体の感じ、心臓のドキドキ、主人公になりきって感じてみましょう。周りには誰がいますか? その人はどんな人ですか? どんな格好をして、何を言っていますか? あいまいなところがあれば、人物設定やストーリーのハコガキにもう一度立ち返る必要があります。

作文や小論文を勉強してきた皆さんは、客観的に書かなければならない、と覚えているかもしれません。が、客観的に直すことは推敲の段階でできます。今はまず主観的に、主人公になりきって書いてみましょう。

冒頭で惹きつける、というのは作文と一緒です。冒頭で場面設定をだらだらと並べた小説はそれだけで読んでもらえる可能性をぐうんと減らしています。これを解消する一つの方法としては、とりあえずだらだらと書いてしまってから、冒頭部分を全部削除する、という荒業があります。冒頭部分を削った上でもう一度読み返し、足りない部分を小出しにして補いましょう。慣れてくると、場面設定を小出しに文章に盛り込む勘のようなものが育ってくると思います。

冒頭で惹きつける最も初歩的な方法は象徴的なセリフから始めることです。あるいはセリフでなくても、オッと思わせる文から始めることもできます。有名な映画『ホタルの墓』では『八月○日僕は死んだ』という衝撃的なセリフから始まります。ここで読み手の心をつかむわけです。

それから書いてはいけないこと。驚いた、感動した、うれしかった、などの感情を表す動詞。これを書くと説明的になってしまいます。せっかく主人公になりきっているのに、ここでさめてしまいますね。読んでいる人も同じです。(ただし、童話の場合は例外です。なるべく分かりやすい言葉で書いてあげることが必要かもしれません)

驚いた→心臓が飛び出しそうになった→鼓動がメトロノームのように左右に振れた

こんな感じに変えていくと次第に小説らしくなります。説明より描写です。なるべく詳しく、感じるままに書きましょう。

一つ、面白い技法があります。五感をずらす、という方法です。目で見たものを香りにすり替える。耳で聞いた音を視覚にすり替える。上の例も同じです。鼓動という感覚をメトロノームという視覚的なものに置き換えています。特に印象付けたい場面でこの技法は有効です。この技法を使うと、その部分でちょっと引っ掛かりができます。自分の文章が平坦だと思ったら使ってみるといいかもしれません。

途中ではたと手が止まるときがあります。そのときはまた目をつぶりましょう。目の前には誰がいますか? 何を言っていますか? あなたは何を感じていますか? 再び書き続けるヒントが見つかるはずです。とにかく最後まで書いてみましょう。


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